東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1628号 判決
被控訴人は、本件不動産はその所有者たる控訴人の代理人訴外田村政吉から買受けその所有権を取得し、適法にこれが登記をへたものであり、現にその所有者であると主張し、控訴人は、被控訴人が右不動産を控訴人から買受けたことを争い、仮に控訴人が訴外田村に代理権を与えて本件不動産の処分を委任したとしても、控訴人は田村が被控訴人に右物件を売渡す以前において右委任を解除し、田村の代理権は消滅したから被控訴人はその主張の売買契約によつては右物件の所有権を取得せず、その取得登記も無効であると主張する。よつてこれを検討するに、証拠によれば、控訴人はかねて訴外田村政吉に数十万円の借受金債務を負担していたので、右債務を弁済する手段として、昭和二六年一一月二九日、甲第一号証の譲渡委任状と題する書面を差入れて田村にたいし、同人が天野の代理人として本件不動産を他人に売却し、その所有権移転登記申請手続その他一切の行為をする権限を与え、これと同時に右売却代金を田村にたいし負担する右債務の弁済にあてる旨の弁済の予約をしたことを認めることができる。このように右委任契約は債務弁済の手段として弁済の予約と不可分一体のものとして一箇の契約をもつてなされたものであつて、控訴人の利益のためばかりでなく、被控訴人の利益のためにもなされたものであるからこの内容と性質とにかんがみ、控訴人は債権者たる田村の同意なくしては一方的に契約を解除しえないものと解すべきものである。(大正九年(オ)第一七四号、大正九年四月二四日大審院判決参照)よつて控訴人が昭和二六年一二月下旬ごろ、および昭和二七年一月一〇日ごろ田村にたいし、右委任契約を解除する旨の意思表示をしたから、これにより田村の代理権は消滅したという控訴人の主張は、右意思表示の有無につき判断するまでもなく、理由がない。
(藤江 原宸 浅沼)